本書は,漁業制度を学び始めようとする学生,あるいは現場で漁業に関する研究や実務にたずさわっている方々を対象に,我が国漁業制度の包括的な理解を目的とした書である.
本書の特徴は,大きく2 つある.第1 は,できるだけ多様な側面からの接近により,我が国漁業制度の輪郭描写を試みた点である.たとえば,我が国漁業を取り巻く自然生態系の特徴と社会経済の特徴を抽出したうえで,その特徴に即した議論の展開を試みた.また,通常の制度研究で用いられる法学的な考察に加え,制度の歴史的経緯の整理や国際比較,そして具体的な事例研究に章を割いている.
本書のもう1 つの特徴は,我が国漁業制度を多様なテーマに即して議論している点である.沿岸漁業,沖合漁業の具体事例に加え,海洋性レクリエーションや,生態系保全,海洋保護区,ユネスコ世界遺産,気候変動などのテーマを考察することにより,自然と人間のかかわり方に通底する一般原理への接近を試みた.本書の目的と構成について,より詳しくは第1 章§3. を参照されたい.また,上記の2 つの試みに本書がどの程度まで奏功しているかについては,読者諸賢のご批判に俟ちたい.
このような包括的な制度研究アプローチは,京都大学大学院の恩師である北畠能房博士のご指導に拠る.なお,北畠先生からご教授頂いたもう1つの分析ツールである,定量経済分析については,紙幅の都合上,本書では引用に留めざるを得なかった.本書でも繰り返し述べたように,定量経済分析は,自然科学と並び,制度研究の強力な分析ツールである.稿を改めて上梓することとしたい.また,本書で紹介している視点や視座,あるいは具体事例分析については,ここではとても列記できないほど本当に数多くの恩師や共同研究者から頂いた助言と激励に負うところが大きい.ここに深く感謝の意を表させていただく.
(後略)
2013 年7 月
(独)水産総合研究センター中央水産研究所
牧野光琢
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